塗装小事典

塗装に関する基礎的な内容をまとめてみました。


歴史     目的     工程     方法     対象/素材     塗料




◇塗装の歴史

 塗装は最も古い歴史をもつ表面処理技術の一つです。塗料を対象物の表面に塗ることで美観を与えたり、対象物を保護することは古くから行われていました。
 たとえば、古代エジプトのミイラや古墳から発見されたやじりには漆(うるし)が使われていました。これらの塗料は天然の樹脂、乾性油(かんせいゆ)、生うるし、動物性蛋白質などの天然物でした。これらの天然物に色彩をもつ粉末を加えて塗料にしていました。
 現在使用している塗料のように、溶剤で塗料を薄める(希釈する)ようになったのは18世紀からです。日本では、明治初年に洋式ペイント(油ペイント)が輸入され、やがて漆や渋に替わり洋式ペイントが生産されるようになり ました。
 現在では、木工品、鉄鋼製品、非鉄金属製品、プラスチックスなど多くのものに塗装が行われています。

  

◇塗装の目的

 塗装を行う主な目的には、対象物の保護、外観の向上、機能の付与などがあります。

 

(1)対象物の保護
 製品の表面に強固に付着させた塗膜は水分、酸素、硫黄、電解質などに触れることで起こる錆や腐食を防ぎ、製品を守ります。また、塗膜は外部から強い力を受けることで起こる損傷や摩耗などから製品を守ります。

 

(2)外観の向上
 塗装を行うことで彩色(いろどりのこと)や光沢を製品の外観に与えることができます。この彩色や光沢が与えられることで製品の芸術的価値や商品価値が高まります。

 

(3)機能の付与
  塗料を行うことによって製品に耐熱性、導電性、防火、遮熱などの機能を付与し、製品の付加価値を高めることができます。 

  

◇塗装の工程

 塗装はただ塗料を塗るだけではありません。塗装を行うことで期待される効果を発揮させるには、塗 装を行う面に、ごみや油、さびなどの異物がないようにしておく必要があります。また、塗料は漆細工のように一回塗るだけではなく、下塗り、中塗り、上塗りなど何回か重ねて塗ります。こうした塗装工程のあらましは次の通りです。

 

(1)前処理
 この工程では、塗装する面のごみや油、さび、異物などを除き、表面をきれいにします。具体的には、専用の洗浄剤を使って脱脂や酸洗いを行います。また、必要に応じて、機械的な研磨や、塗膜の密着性や耐食性を高めるためにリン酸塩などを使った化成処理を行います。

 

(2)塗料の調合
 この工程では、塗りつける方法に適した塗料になるように塗料を調整します。また、目的の色になるように色を調整します。この塗料の成分が二つ以上 に分けられていて、塗装の直前に混合して使用する多液型塗料の場合は、主剤・硬化剤・促進剤などをそれぞれに適合した割合で混合して調整します。

 

(3)塗料の塗りつけ
 この工程では、調合した塗料を塗装したい製品に塗りつけます。その塗り方には、刷毛塗り、吹き付け、エアレススプレー、ホットスプレー、静電塗装、電着塗装などの方法を用います。

 

(4)塗膜の乾燥
 この工程では、塗りつけた塗料を乾燥させます。その乾燥の仕方には、冷却固化、蒸発乾燥、酸化乾燥、重合乾燥、融合乾燥、これらの組み合わせなどがあります。

 

(5)後処理
 この工程では、必要に応じて、塗料が乾燥した表面を研磨するなどの後処理を行います。なお、通常は塗料の塗りつけは1回で 終わるのではなく、下塗り、中塗り、上塗りなど目的に応じて何回か塗料を塗り重ねます。

  

◇塗装の方法

 液体や粉体の塗料を塗装する方法には、刷毛ローラー、スプレー、鏝塗り、へら塗り、流し塗り、漬け塗りなどがあります。このほかに、水溶性ないし水分散性で電導性のある水性高分子塗料の中を通して塗装を行う電着塗装、静電気を利用して塗料を効率よく塗りつける静電塗装があります。

 

(1)刷毛ローラー塗装
 刷毛を使った塗装は古い歴史があります。刷毛ローラー塗装は大面積を仕上げるのが得意で、塗装する人 の技量を選ばない、つまり品質が安定しており、建築塗装の分野でそのシェアを広げています。

 

(2)スプレー塗装
 スプレーを使った塗装は当初、塗料としてラッカーを使おうとしたところ、乾燥が早いため刷毛ではきれいに塗ることができないことから考えられたと言われています。霧吹きのように、塗料を霧状にして塗装したい製品に吹き付けることで塗装を行います。

 

(3)浸漬塗装
 浸漬塗装は、塗料を貯めたタンクの中に塗装したい製品を漬けて塗装する方法です。比較的簡単な塗装方法なので、古くから利用されてきましたが、塗装したい製品を塗料に漬ける際に、塗料が上部に薄く、下部に厚くなるデメリットがあるといわれています。

 

(4)電着塗装
 電着塗装は、 タンクの中に電極を置いて塗装したい製品に直流電流を流して、塗装したい製品の表面に電気化学的に塗料樹脂を付着させます。塗膜の膜厚を通電量により管理し、複雑な形状でも膜厚を一定にできることが大きなメリットです。

 

(5)静電塗装
 静電塗装は、帯電した霧状の塗料を利用した塗装方法です。塗料を霧状にする方式には、塗料を噴霧器で噴霧するガン型と、帯電した塗料自身の反発を利用した静電霧化方式があります。


(6)粉体塗装
 粉体塗装とは、粉末状の塗料を塗装したい製品に付着させる塗装方法であう。塗料を付着させる主な方法には、静電乾式吹き付け法、流動浸漬法があります。 

  

◇塗装の対象(素材)

 工業用塗装では、鉄、アルミなどの金属のほか、プラスチック樹脂や木材などに対する塗装が行われています。当社が主に扱っている素材は、以下のとおりです。これらの塗装は、対象となる素材の性質によって適した塗装方法、塗料が変わってきます。

素材名 素材の特徴
 鉄   鉄は、安価で比較的加工しやすく、入手もしやすい金属です。その特徴は強く、硬いことです。この鉄は、炭素とさまざまな微量金属を加えることで、多様な優れた特性を持つ合金鋼を作ることができ、様々な部品の材料として使用されています。
ステンレス  ステンレス(鋼)は、鉄にクロムを加えて作る合金で、さびにくいことが特徴です。その特徴を活かして、水を多く使う厨房設備や、屋外の構造物、鉄道車両の構体や部品に多く使われいます。
アルミ   アルミニウムは、軽く、さびにくいという特徴を持っています。さまざまな微量金属を加えることで、強靱にも、薄くもできるようになります。加工もしやすいので、様々な部品の材料として使用されています。また、腐食しにくく、融点(660.2度)が低いので再生がしやすいという特徴を持っています。
アルミダイカスト   アルミダイカストは、アルミニウムにさまざまな微量金属を加えた合金を金型内に圧入し、瞬時に成形する特殊な鋳造品です。複雑な形状でも精密で正確に仕上げることができ、仕上がり表面も美しく、大量生産が可能な点が特徴です。自動車部品に多く使用されているほか、パソコンや携帯電話、デジタルカメラなどさまざまな製品を構成する部品に使われています。
マグネシウムダイカスト  マグネシウムは、アルミ二ウムより軽く、プラスチックより強い、電気・熱の伝導性が良い、リサイクルが可能など優れた特性をもっています。このマグネシウムに微量金属を加えた合金を金型に圧入し、瞬時に成形して作ったマグネシウムダイカストは、自動車部品、オートバイ部品、ノートパソコンや携帯電話など、軽さが重要視され、かつ強さも求められる分野で多用されています。 

 

  

◇塗料

◇塗料の種類

(1)有機溶剤系の塗料
 有機溶剤系の塗料には、焼付け塗装と常温乾燥塗装に使うもので分けることができます。
 焼付け塗装には、合成樹脂のメラミンやアクリルなどの溶剤系塗料を使います。この塗料を製品に塗った後に乾燥炉に入れて、熱によって硬化させます。一方、常温乾燥塗装では、ラッカーや2液混合タイプの塗料を使います。

 

(2)粉体系の塗料
 粉体系の塗料は、塗料中に有機溶剤や水などの溶媒がなく 、塗膜を行うための成分だけが配合されている粉末状の塗料です。VOCなどの揮発成分がないため、大気を汚染しない、危険物の保管負担が少ないなどのメリットがあります。また、回収した塗料を再利用することも可能であるため、廃棄物を少なくすることもできます。
 一方、粉体系の塗料を使った塗装では、有機溶剤系の塗料を使った塗装のような肌艶の質感が得にくく、有機溶剤系の焼付け塗装よりも高温な乾燥炉に投入して焼きつける必要があるため、熱に弱い製品には使用できないデメリットがあります。

 

(3)水系の塗料 (当社では使用しておりません。)
 水系の塗料は、有機溶剤系の塗料と同様、焼付け、常温乾燥で塗装するもののほか、電着塗装に使用する塗料があります。水系の焼付け塗装や常温乾燥の塗装は、安全 で環境に優しいのですが、湿度に影響されやすいため湿度管理設備が必要になるなど、大量処理を行うには設備投資が必要になります。電着塗装も、塗料槽が必要なうえ、焼きつけ工程も必要なため設備が大がかりになるデメリットがあります。

◇合成樹脂塗料

 現在、工業用塗料の多くが合成樹脂塗料を使っています。この合成樹脂塗料には「アルキド樹脂塗料」「アミノアルキド樹脂塗料」「アクリル樹脂塗料」「フェノール樹脂塗料」「エポキシ樹脂塗料」「不飽和ポリエステル樹脂塗料」「ポリウレタン塗料」などがあります。

名称 概要
主な用途
 アルキド樹脂塗料 アルキド樹脂塗料は、メラミン樹脂とブレンドした焼付塗料として、建築物、構築物、船舶、重機器などに広く用いられています。使いやすく美観、耐久性がよく、価格も手ごろなことが特徴です。
 木材、鉄鋼、船舶、車両、大型機械、木工製品など。
アミノアルキド樹脂塗料
 アミノアルキド樹脂塗料は、硬いけれど割れが発生しやすいア ミノ樹脂の欠点を改良するためにアルキド樹脂を混合しています。無色透明で保色性がよく、耐候性や耐薬品性をもち、堅牢で難燃性があるのが特徴です。 車両、自動車、小型機械など。
アクリル樹脂塗料
 アクリル樹脂塗料は、付着力が大きく耐候性、耐食性にすぐれ、透明で変色しにくく、光沢があるので仕上げがきれいという特徴をもっています。その特徴から、建物、家電、自動車などの上塗り塗料として広く使用されています。 鉄鋼、自動車、車両、アルミ製品、小型機械など。
フェノール樹脂塗料
 フェノール樹脂塗料は、耐水性、耐薬品性に優れ、「耐酸塗料」とも呼ばれており、下地塗り塗料、耐薬品塗料として使用されています。 自動車、電気絶縁用、木材、接着剤など。
エポキシ樹脂塗料
 エポキシ樹脂塗料は、耐薬品性や耐摩耗性、耐水性、密着性に優れており、金属や樹脂、コンクリートなどの防錆、保護塗料として使われています。 鉄鋼、自動車、車両、小型機械など。
不飽和ポリエステル樹脂塗料
 不飽和ポリエステル樹脂塗料は、厚塗、短時間乾燥が可能で、化学抵抗性が高く、耐熱性、電気絶縁性に優れており、木製品の仕上げ塗料として使われています。 木材、鉄鋼、車両、自動車、小型機械、木工製品など。
 ポリウレタン塗料  ポリウレタン塗料は、耐摩耗性、耐候性、耐水性、耐薬品性、耐油性などに優れ、光沢もよいという特徴を持っており、木製品、コンクリート、モルタル、プラスチック、金属などの塗料として使われてい ます。  木材、鉄鋼、車両、自動車、電気絶縁用など。